正宗白鳥による谷崎潤一郞と佐藤春夫人物評伝5

正宗白鳥による谷崎潤一郞と佐藤春夫人物評伝4の続きです。中央公論社から出版された正宗白鳥の「文壇人物評論」から「谷崎潤一郞と佐藤春夫」の現代語訳を以下に全文掲載しております。手前勝手な現代語訳であるため、正確性に欠ける点があるかもしれません。その点につきましては、ご了承ください。長かった正宗白鳥のこの二人の語りも今回で最後になります。ここまでおつき合い下さった皆様方、ありがとうございました。

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 ところで、文豪達に愛された煙草ゴールデンバットは今でも現役なんですね。昔は、煙草を吸うのは男としての通過儀礼みたいなところがあり、煙草とお酒が飲めなきゃ男じゃないような風が吹いていました。今は、本当にそんなことがなくなっていい時代になったと感じています。それに加え、今はお酒が買いやすくなりましたね。
 昔は、酒屋さんは本当に大名なところがあったと聞いていますし、ご近所つきあいの観点から一本だけお酒を買うという行為がしにくかったのを覚えています。なので、父や祖父に贈り物をする時は、今でしたら好きなお酒の一升瓶を買ってメッセージカードを添えて渡すこともできますが、昔は、好きな煙草の銘柄をカートン買いして包んで貰って渡すほうが楽でした。
 今となっては、それも逆転して…昔の常識は現在の非常識になっているのを感じます。なので、常識や認識は刻々変わることを頭に入れておくと齢を重ねたときに、自分の常識が通じなくて腹を立てる事がありません。とは言え「昔と今では常識が違うのよ」を頭に入れておいても、驚くことは多々あります。

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「自分は、歌舞伎の形式の尚将来に利用するに足ることを信じる」と、坪内逍遙(つぼうちしょうよう)先生は云われて、そして、最初の試みとして、その形式の一つであるチョボを復活した著作を発表された。ある理論の主張とともに、その理論を具体化した作品を示されるのが、先生の在来の慣例である。
 偶像破壊伝統無視の清新によって起こされた新劇運動も、伝統の怪物たる歌舞伎劇壇から追放するさきに、新劇自身の方が亡(ほろ)んでしまった。イプセンやストリンドベルヒの清新や形式よりも、歌舞伎の形式の方が、将来の日本の演劇に多分に利用すべき分子をもっているかも知れないと、我々も時として考えないこともない。しかし、チョボの復活、「チョボの新式化」は、我々の想像しないところであった。「阿難の累い」は、役々の台詞にはすべて現代語が用いられ、それにチョボが挿まれているのが、奇抜に思われ、実演してどういう効果を奏するかと興味を惹かれるのである。ただ読んだだけでは、何の不調和も感じられず、突飛な感じもしないのは、作者が老練なためでもあるが、題材が古代から取られ、舞台面が歴史的であり空想的であるためでもある。
 この新作は、歌舞伎の形式利用から思いつかれた新しい音楽趣味、新しい形式美を主要な点として試作されたもので、作中の男女の性格とか、思想家にはそれほど重きを置かれていないのかも知れないが、ただ読んだだけでは、その方がよく我々の心に映じた。「二つの魔障」は、道を修する者の障りとして、西洋でも東洋でも古来説かれているようであるが、それ等を脱却したいわゆる法悦の境地は、空漠たる淋しい枯れ野原のようであると、私などには思われる。老病死を現わした仮面に脅かされて心機一転した少女や、釈尊の暗示的な言葉に心の窓を開かれたという青年の心を私はいろいろに忖度(そんたく)したが、それは「旭光輝き、微妙な音楽」の聞こえる舞台とは調和しそうでないように思われた。
 そういう理屈をこの戯曲に求めるのは、外道の考えであろう?仮面をかぶって、病苦と老衰との説明をする槃特(はんどく)の振事なんかは、一見日本の舞踊に相応しいもののように思われるが、在来の例によると、こういう振りは、道化たおかしみに富んだものになりがちなので、この新作を正しく現わすためには、俳優は旧套(きゅうとう)を脱する必要があるのだ。おかしみに堕したら、少女の心機一転の動機が弱くなるのである。この少女は、作者が指定されたように、「生まれ附きが至って単純」であるとともに極めて情熱がつよくなければならぬので、従って、この役に扮し得る女優は、今の劇壇にはありそうに思われない。役柄が昔の岩井某瀬川某を連想させられる。(昭和七年四月)
 

チョボ・・・歌舞伎における義太夫節、及びその語り手をチョボという。歌舞伎では、セリフや演者同士のやりとり以外の部分を受け持つ。

忖度(そんたく)・・・他人の気持ちをおしはかること。

槃特(はんどく)・・・おろか者。愚鈍な人。

旧套(きゅうとう)・・・古来からの形式や慣習。ありきたりの方法。

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